大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和24年(行)9号 判決

原告

織田佐京

被告

新潟県農地委員会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

請求の趣旨

新潟県佐渡郡河崎村農地委員会が昭和二十三年九月一日同大字両尾百七番宅地六十三坪につき定めた買收計画、ならびに被告が原告の訴願を棄却した裁決はいずれもこれを取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は、その請求の原因として、右河崎村農地委員会は昭和二十三年九月一日原告所有の右宅地につき訴外中浜龍藏の申請により自作農創設特別措置法第十五條第一項第二号に基き買收計画を定め、その旨公告した。それで原告は同年九月十二日同委員会に異議を申立てたが同月二十日却下せられたので同年十月一日被告に訴願したが被告は原告の訴願を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書謄本は同年十二月二十四日原告に送達せられたのである。しかしながら(一)右中浜龍藏は以前から田一反一畝五歩畑一畝十四歩を所有し自からこれを耕作していた自作農であつて、その後昭和二十二年十二月農地解放により田四畝十九歩の売渡を受けたけれどもそのためはじめて自作農となつたものではないので、自作農創設特別措置法第十五條第一項にいわゆる自作農となるべき者に該当しないのみならず、右宅地はその地上に同人所有の住宅があるのみで同人が解放を受けた右農地とは全然関連のないもので農業の経営に必要な土地ではないのである、しかも右宅地は原告が曩きに昭和二年十二月右中浜龍藏に対し期間二十年の約束で賃貸したのであるが既に期間満了しその後昭和二十三年一月更に期間を一年と限り同人に賃貸したものであるから右河崎村農地委員会が中浜龍歳の申請を相当と認めて本件買收計画を定めたのは違法である。(二)右中浜龍藏は昭和二十三年九月下旬右河崎村農地委員会に対し本件宅地の買收申請の取下をなしたのであつて、自作農創設特別措置法第十五條による宅地の買收は同條に規定する関係人の申請を要件とするものであるから本件買收計画は右取下と同時にその効力を失つたものと云うべきであるが仮に無効になつたものでないとしても右買收申請の取下があつた以上本件買收計画は当然取消さるべきものである。又仮に中浜龍藏がその後昭和二十三年十月十八日右買收申請の取下を撤回したとしても、同委員会は更めて買收計画を定めなければならないものであつて本件買收計画をそのまま維持することは違法である、よつて右河崎村農地委員会の定めた本件買收計画、ならびにこれを支持して原告の訴願を棄却した被告の本件裁決の取消を求めるため本訴に及んだのであると陳述した。(立証省略)

被告指定代理人は、主文第一項と同旨の判決を求め、河崎村農地委員会が訴外中浜龍藏の申請によつて昭和二十三年九月一日原告所有の本件宅地につきその主張の如く買收計画を定めこれを公告したこと、原告がその主張の如く異議の申立ならびに訴願をなしたがいずれもその主張の如く排斥せられ被告の裁決書謄本が原告主張の日に送達せられたこと、右中浜龍藏が以前から農地を所有し耕作していたこと、その後昭和二十二年十二月農地解放により小作地の一部売渡を受けたこと、右中浜龍藏が原告から本件宅地を賃借しておつてその地上に住宅一棟を所有していること、右中浜龍藏が昭和二十三年九月末頃河崎村農地委員会に対し右買收申請の取下をなしその後同年十月十八日右取下を撤回したことは認めるがその余の原告主張事実は否認する。(一)右中浜龍藏は以前から田二反七畝、畑五畝四歩(その内自作田一反二畝十五歩、畑一畝十四歩)を耕作していたが、昭和二十二年十二月農地解放により右小作地の内田八畝二十三歩の売渡を受けたのであつて同人は自作農創設特別措置法第十五條にいわゆる自作農となるべき者に該当するのみならず本件宅地は同人が昭和五年中原告から期間二十年の約束にて賃借したもので地上には住宅の外作業場や便所があつて農業経営に必要な土地である。(二)右河崎村農地委員会に於て本件買收計画を定めた後昭和二十三年九月末頃中浜龍藏から買收申請の取下があつたけれども右取下によつて買收計画がそのまま効力を失うものではなく農地委員会に於て適法な手続に從い計画を取消すまでは有効に存続するものであつてその後同年十月十八日中浜龍藏に於て右買收申請の取下を撤回したので、同委員会は曩に定めた本件買收計画をそのまま維持して爾後の手続を進行したのである、從つて河崎村農地委員会が右中浜龍藏の申請によつて定めた本件買收計画、ならびにこれを支持して原告の訴願を棄却した被告の本件裁決は違法でないと答弁した。

(立証省略)

理由

河崎村農地委員会が訴外中浜龍藏の申請により昭和二十三年九月一日原告所有の新潟県佐渡郡河崎村大字両尾百七番宅地六十三坪につき、自作農創設特別措置法第十五條第一項第二号により買收計画を定めその旨公告したこと、原告が同年九月十二日同委員会に異議を申立てたが却下せられたので同年十月一日被告に訴願したが被告に於て原告の訴願を棄却する旨の裁決をなし、右裁決書謄本が同年十二月二十四日原告に送達せられたことは当事者間に爭のないところである。よつて原告主張の(一)の点について按ずるに、成立に爭のない乙第一号証の一、二、証人中浜龍藏、同石川源七郞の各証言及び成立に爭ない乙第一号証の四により眞正に成立したものと認め得る乙第一号証の三を綜合すると、右中浜龍藏は以前から田畑合計三反二畝四歩(内自作田一反二畝十五歩、畑一畝十四歩)を耕作していた專業農家であるが、昭和二十三年十二月農地解放により小作田の内八畝二十三歩の売渡を受けたことが認められるので右中浜龍藏は自作農創設特別措置法第十五條第一項にいわゆる自作農となるべき者に該当すること明かであるのみならず同証人等の証言によると本件宅地は右中浜龍藏が昭和五年中原告から期間二十年の定めにて賃借したもので、その地上には中浜龍藏の住宅がある外(同人所有の住宅の存することは当事者間に爭がない)農業の作業場もあつて本件宅地は同人の農業経営に必要な土地であることが認められ他にこれを覆へすに足る証拠は存しない。從つて河崎村農地委員会が右中浜龍藏の申請によつて定めた本件買收計画にはこの点に於て原告主張のような違法は存しない、次に原告主張の(二)の点について按ずるに、右中浜龍藏が昭和二十三年九月末頃右買收申請の取下をなしその後同年十月十八日更に右取下を撤回したことは当事者間に爭のないところである。しかしながら農地委員会が自作農創設特別措置法第十五條第一項により宅地の買收計画を定めた後買收申請の取下があつてもその買收計画は直に効力を失うものではなく同委員会に於て適法な手続により取消すまでは有効に存続することは明かである、しかして右買收計画の取消される前更に買收申請の取下が撤回された場合には農地委員会に於て先の買收計画を取消した上更めて買收計画を樹てるべきものではなく先の買收計画をそのまま維持して爾後の手続を進行すべきものであるから右河崎村農地委員会の定めた本件宅地の買收計画にはこの点に於ても原告主張のような違法は存しないものと云うべきである。さすれば河崎村農地委員会の定めた本件買收計画、ならびにこれを支持して原告の訴願を棄却した被告の本件裁決には結局違法の点は存しないから、その取消を求める原告の本訴請求は理由のないものである。よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用して、主文の通り判決する。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例